こだわりぬいた「魚介由来のお土産」づくり。元ソムリエで老舗鮮魚店3代目が手掛ける絶品とは
島モノ
2021/03/31
ムラタ マチヨ
四方を海に囲まれた奄美大島は、豊かな漁場による恩恵を受けている。魚やイセエビ、夜光貝など魚介類は島内外で人気だ。
奄美市名瀬港町にある老舗鮮魚店「前川水産」。3代目となる前川晃一(まえかわ こういち)さんは、2代目である父親を手伝うためUターンし、改めて島を見たときにふと思った。「魚介を作ったお土産が少ない」。
Uターン前は、一流の割烹やフランス料理店でソムリエを務めたという、稀な経歴の前川さん。世間の新型コロナの感染拡大によって、仕事の時間に余裕もある。前川さんの、これまでにない新しい挑戦が、老舗鮮魚店の片隅で始まった。
京都祇園でソムリエに
奄美市名瀬出身。
大学進学を機に島を出て、卒業後は一流割烹「京都吉兆」の店舗で接客業務を務めた。
一流のサービスを学んでいく中で、ワインに興味を持ちソムリエの資格を取得。
ワインのことを知れば知るほど、もっと勉強したいという気持ちが強くなり、フランス料理店への転職を決意。
知人の紹介があり、オープン予定だった祇園のフランス料理店で支配人兼ソムリエを務めることなった。
そのとき若干27歳。
自分がトップになって店を運営し、学びの多い日々だった。
国内外から洗練されたお客様が集まる祇園で、日本料理とフランス料理という畑違いの料理店で経験を積んた。
このことが前川さんの知見を広げ、香りや味覚のセンスが磨かれていく。
フランス料理店での経験を活かした商品づくり
いずれは実家の鮮魚店の仕事を継ぐつもりだったという前川さん。
双子のお子さんが生まれたことをきっかけに、2018年、家族で島へ移住した。
移住当初は、2代目のお父様もまだまだ現役ということもあり、他の仕事に就くことも考えた。離島にいても、常に外にアンテナを張っていたい、という思いがあったのだという。
そこで目を付けたのは、島に寄港することもある、大型の豪華客船。国内外のお客が旅を楽しむ客船の乗船スタッフとして働くことも視野に入れたが、まだ幼い子どもたちを島に残して長期不在になることは本意ではないと考え、方針転換。
次に、国内だけでなく、海外から来る目の肥えた観光客にも喜んでもらえる商品を作ろうと考えた。
鹿児島の魚介を使ったお土産は、干物やかつおぶしはあるけれど、瓶詰された本格的なものはあまりないと感じていた。
そこで思いついたのが、自分がフランス料理店に勤めていたころよく見ていた「コンフィ」。コンフィとは、フランス伝統料理の調理法のひとつで、食材をオイルに浸し、じっくり煮る料理のこと。
冷凍技術がなかった時代から食材の長期保存の方法として使われてきた調理法である。コンフィは長期保存ができるというメリットだけではなく、一緒に入れるハーブなどによって食材をより美味しく、風味を豊かにすることもできる。
奄美の魚介を使って、コンフィを作ってみようと考えた。
魚介の食感の柔らかさと旨味を引き出すためには、じっくり低温で煮る必要がある。温度と時間を試行錯誤しながら、夜光貝・烏賊・鮪と3種類のコンフィを開発した。
また、一緒に入れるハーブにもこだわりがある。
奄美ならではの島唐辛子を利かせつつ、ローズマリーやタイムなど、食材それぞれに合わせた香りをいれている。
鮪コンフィには、奄美の健康食材として知られる長命草(ボタンボウフウ)を加えた。
「ハーブの代わりに、いい意味でアクのある長命草を少しだけ入れてみました。野性味のあるエキゾチックな香りがほどよく鮪の旨味を立ててくれています。」と語る前川さん。
香りや味の表現がさすが元ソムリエだなと感じた。
商品はコンフィ以外にも。無添加へのこだわり
前川さんのアイデアはコンフィだけに終わらなかった。
魚みそ辣油、まぐろ山椒、XO醤(エックスオージャン)と次々新商品を開発。それぞれ素材を厳選し作られた自慢の逸品だ。
2021年3月に販売開始したXO醤(エックスオージャン)は、奄美近海産のソデイカ、北海道産の干しホタテ貝柱など約20種類の食材を組み合わせて作った、本格的な高級中華調味料。人工調味料・着色料・保存料は使用せず作っている。
XO醤は原材料の種類が多く、高級食材を必要とすることから、原価が高くなる。そのため国産のもので作られたのXO醤は希少だ。さらに、素材には奄美ならではの「ソテツ味噌」も加えた。
また、商品すべてをこれから「無添加」にしていきたいと語る前川さん。
ワインを勉強した経験から、ヨーロッパではビオワインなど、無添加であることが当たり前に求められるという。「化学調味料がないと美味しくない、では嫌なので」と語る前川さん。
今後は全商品を無添加にして、それをアピールポイントにしたいと考えている。
商品づくりにおいて大切にしていること
「商品づくりの中で一番大事にしていることは何ですか」と聞いてみた。
前川さんはしばらく考えた後、
「一般のお客様には、可食部…いわゆる魚の身の部分や、烏賊の胴の部分にしか目を向けてもらえない。でも本当はそれ以外の部分も美味しく食べられる。烏賊の軟骨にこそ旨味があったりするんです。」
見た目や色の問題から飲食店には卸さないが、美味しく食べられる部分をうまく活用して、良いものを作ることに面白さを感じているという。
コロナ禍で海外からの観光客が激減している中、さまざまな商品開発を通して世界を見据えている前川さん。
老舗鮮魚店を舞台にした、島の魚介と外国の料理法の素敵な出会い。それらを結びつけるのは、前川さんの熱い思いや発想によるもの。今後の展開に、注目していきたい。
この記事を書いたフォトライター
ムラタ マチヨ
福岡県出身。二児の母。13年間東京で暮らし、2018年春に夫のふるさとである奄美大島に移住。元々は都会が好きで、移住には不安も感じていたが、奄美の人や文化に触れ今ではすっかり島の魅力に取り憑かれている。外から移住したからこそ分かる島の良さ、楽しいことをたくさん発信していきたい。