地域資源を生かした商品づくりで島にエールを。瀬戸内町 泰山祐一さん

島人

2021/03/29

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ムラタ マチヨ

地域振興、地域おこしでよく使われる「宝探し」という言葉。
身近に”眠っている”宝モノ=地域資源”を見出すことを言うが、本当に大切なのは宝を見つけた「そのあと」なのだと感じる。

掘り起こした宝モノはその多くが原石のまま。さて、これをどう活用して、すばらしさを知ってもらえばいいのか。宝を磨き、輝かせることに尽力するキーマンが、奄美大島の最南端、瀬戸内町にいる。

「はなはなエール」代表、泰山祐一(やすやま ゆういち)さんに会ってきた。

「いつかは島に帰りたい」奄美大島2世がいだいた思い

和やかな雰囲気のなか、地元のお母さんたちと親しげに話す泰山さん、35歳。

控えめで落ち着いたしゃべり口だが、島んちゅらしい目元に情熱を感じさせる。

ご両親は奄美大島出身・育ちの奄美大島2世。

関東で育ちながらも祖父母、親戚が瀬戸内町にたくさん住んでいたこともあり、「ふるさとは奄美大島」という感覚でいたとのこと。

大学卒業後は大手広告代理店に就職。業務に忙殺される日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ「いつか奄美に帰りたい」と考えるようになったという。

祖父が元気なうちに、孫として家業を継いで安心させたいという気持ちも強く、奄美大島への移住を決断。2015年瀬戸内町地域おこし協力隊に入隊した。

地域の人々との会話から見つけた「宝」

地域おこし協力隊という役割を担うなかで、泰山さんの「宝探し」がスタートした。

地域の人々と交流するなかで、ふと、奄美群島には地ビールやクラフトビールのようなものがないから作ってみたらどうかという話で盛り上がった。もともとお酒も好きだった泰山さん。さっそく前職の経験を活かし企画書を作成。2016年、総務省の地域おこし協力隊ビジネスアワード(自治体の支援のもと、起業に取り組む隊員又は隊員OB・OGの取組みで、先進的なものをモデル的に支援するもの)で、全国6件のなかに見事ランクイン。「宝探し」から「宝磨き」に移行した瞬間だった。

クラフトビールには、もちろん、奄美ならではの素材を活用したい。

2016年、AMAMIGARDEN(アマミガーデン)という名称で誕生したクラフトビールは、「たんかんペールエール」、「黒糖スタウト」、「パッションウィートエール」の3種類。どれも島の素材を取り入れ、素晴らしい風味を最大限生かせるように試行錯誤した逸品だ。

島の香り漂うクラフトビールは、各種コンテストでも高い評価を得る。ビールの国際コンテスト、インターナショナル・ビアカップ2020では、黒糖スタウトと新商品のパッションリッチエールが銅賞受賞している。

写真左からたんかんペールエール、パッションリッチエール、黒糖スタウト。

地域の宝モノで奄美を応援したい。社名に込められた思い

クラフトビールを開発した翌年、2017年には合同会社奄美はなはなエールを設立。ビールだけでなく、奄美の素材を活かした炭酸飲料などの商品づくりを続けている。

会社名の「はなはなエール」には乾杯のかけ声を意味する「はなはな」と奄美を応援する「エール」の気持ちが込められている。

奄美のものを使った商品を開発することに面白みを感じているという泰山さん。

その情熱はどこからくるのか。

「宝さがしみたいな感覚です。島にあるものをうまく活用できないかと何か始めようとしたときに、すぐに面白いことができる環境だと思う。やればやるほど、日々面白さを体感しています。」

次に泰山さんが目を付けたのが、瀬戸内町では「クサラ」と呼ばれる柑橘。

地域によっては「クサ」「クサクネブ」「シークー」などと呼ばれている。

奄美群島に昔から自生しているそうで、実は黄色く、皮が分厚い。

泰山さんより提供いただいたクサラと呼ばれる柑橘の写真

実の中に種子がたくさん入っていることも特徴の一つだという。

ポンカンやタンカンが奄美に入ってきてからは、その種子の多さや酸味から食べるために収穫する人は減っていった。

奄美市北部に住む筆者の義父によれば

「クサクネブは昔からその辺に生えているけれど、実はすっぱくて食べないし誰も見向きもしないよ」とのこと。

そんなクサラ、実は皮の香りがベルガモットに酷似している。

ベルガモットとは古くからヨーロッパで使用されてきた柑橘からできた香料で、紅茶のアールグレイの香りづけにも使われている。

泰山さんはこの香りを何かに使えないかと考えた。

中央:三宅和代さん 右:倉田秀美さん

泰山さんが声をかけたのが、親戚のように仲良くしているという倉田秀美さんと三宅和代さん。二人とも瀬戸内町育ちのシマッチュだ。

倉田さんは昔からクサラが好きで、実も食べていたという。

「祐一がクサラで何かしたいと言ってきたときは『やったぁ!』という感じ。大好きなクサラを皆に知ってもらいたいと思った」とのこと。

一方の三宅さんはクサラを知らなかったという。

「こんなにいい香りがするんだと感動しました。作ったクサラの粉をいろんな料理にかけて楽しんでいます。」

クサラは熟れた実より、まだ青い実の皮の方が香りがいいという。

奄美大島本島はもちろん、加計呂麻島まで何度も通い、まだ青いクサラを集め、皮を乾燥させミキサーで粉にした。

粉の香りはいわゆるミカンのような甘さはなく、爽やかで華やかな良い香りだ。

そのクサラの粉を使って作られた新商品がクサラティーの「むる香るん茶」。

鹿児島県曽於市にある末吉製茶工房とのコラボレーション商品だ。

クサラの華やかな香りと、緑茶のほっとさせる旨味がうまく合わさっている。

昔からあり、素晴らしい魅力があるのに、時代の流れとともに見向きもされなくなってしまった「宝モノ」。泰山さんは、そんな宝モノ・クサラの魅力に島の人たちが気づいて、それぞれでいろんな商品が作られたり、自分の家で楽しんでくれることを期待している。

自分たちで作ったというクサラ塩。いろいろな食事に合うという。

「これからの奄美大島は原点回帰が大切だと思っています。新たに何かを開発したり作り出すよりも、原点に立ち返って島に元々あったものの素晴らしさを再発見していく。そうすることで、島の人たちにとって本当に大切なものが見つかると思うし、観光客の人たちも奄美の独自性の部分で魅力を感じてもらえるのではないかと考えています。」

島外の人たちにも奄美の本質の部分で魅力を感じてもらいたいと語る泰山さん。

倉田さんと三宅さんは「若い人が地元のために頑張ってくれるのはうれしい。応援していきたい」と語る。

宝を探し、磨いていくのに必要なのは、才能だけではない。なによりも根気と情熱、そして周囲を巻き込んでいく人間力かもしれない。

島の人たちと会話を惜しまず、楽しみながら地域資源を見つけ出して輝かせていく泰山さんの行動に、そんなことを感じた。

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この記事を書いたフォトライター

ムラタ マチヨ

ムラタ マチヨ

福岡県出身。二児の母。13年間東京で暮らし、2018年春に夫のふるさとである奄美大島に移住。元々は都会が好きで、移住には不安も感じていたが、奄美の人や文化に触れ今ではすっかり島の魅力に取り憑かれている。外から移住したからこそ分かる島の良さ、楽しいことをたくさん発信していきたい。

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