『島のときと対話する』滞在
島宿
2025/06/28
ショースタク幸子
「まーぐん広場」のフロントの方から大島紬のキーホルダー付きの鍵と朝食セットを受け取り、宿に向かうため車を走らせた。
緑豊かな景色の中を進むと、『伝泊』と書いてあるのぼり旗が見えてきた。
庭先入口へ入るとそこには、奄美の伝統的な高倉が静かに佇み、島時間のゆったりとした流れが広がっていた。
宿の玄関を開けると、木の香りがふんわりと広がる。畳の軋む音、風に揺れる障子の気配に、幼い頃の記憶が鮮やかによみがえる。
壁には、かつての住人が残した落書きや手書きの電話番号がそのまま残されていた。ここはただの宿ではなく、時間が積み重なった「物語のある場所」なのだと実感する。

部屋の電球はスタイリッシュな裸電球でありながら、どこか昭和の懐かしさを漂わせ、柔らかな灯りが空間を包む。
長い廊下を歩くたびに床板が心地よく軋み、その音が歴史の重みを感じさせる。窓の外には高倉の姿が広がり、時の流れに守られた貴重な風景に胸が静かに満たされる。
子供たちはすぐにこの空間に馴染み、まるで自宅のように駆け回る。そんな何気ない光景に、思わず微笑む。
奄美の暮らしを学ぶ宿泊プラン
子供たちに奄美の伝統的な暮らしを体験させたいと考え、「伝泊 島ぬよ~りより滞在プラン」を選択した。この宿泊プランには、農業体験と島料理づくり体験ができる。

農業体験では、有機農業を営む楠田氏の農園を訪問。地元のスーパーでよく見かける楠田氏の野菜は、新鮮で安心できるおすすめの品だ。
農園では栽培の過程を学び、食べ物の大切さを実感すると共に幼い頃、夏休みに父の農作業を手伝った記憶がよみがえった。

楠田氏の自宅の庭には手作りの囲炉裏があり、流木を使って火を焚きながら、豚汁がじっくりと煮込まれていた。
長男はその美味しさに夢中になり、なんと三杯もおかわり。ふっくら炊き上がった炊き込みご飯のおにぎり、新鮮な野菜を使ったサラダが並び、心もお腹も満たされるひとときとなった。


夕方からは島料理作りを体験した。伝泊の女性スタッフと、島のおばあさまたちとともに、くすだファームの採れたての野菜を使い調理する。
長男はお米を研ぎ、次男はカメラマンとして撮影を担当。舟焼きを丸める作業を手伝いながら、地元の方々との会話を楽しむ。普段の生活ではなかなか作る機会のない島料理。この時間は、ただの料理体験ではなく島の暮らしの知恵と温かさを受け継ぐ、大切な瞬間だった。

夕食前に、お風呂に入ることにした。伝泊 古民家では、古来の建築様式である「分散型配置」が受け継がれ、お風呂は母屋と離れた別棟に設けられている。これは、かつての島の人々の暮らしに根付いた知恵だ。風が通り抜ける開けた空間、家族が自然と外に足を運ぶ暮らし、それは単なる構造ではなく、島の時間の流れそのものだ。
現代仕様となった五右衛門風呂には火を使う必要はないが、広々とした洗い場は開放感が心地よく、まるで時代の流れを逆戻りするような感覚に包まれる。
ふと、トタン屋根を打つ雨の音に耳を澄ませる。ぽつぽつと降る雨は、静寂の中に響くその音は、まるで昔話の中に迷い込んだような懐かしさを運んできた。
食後は、高倉で遊ぶ予定だったが、雨のため断念。
子供たちの好きなゲームを一緒にして穏やかに過ごす。そんな小さな変化もまた、島時間の一部なのかもしれない。

朝早く目覚める。子供たちはまだ夢の中。
コーヒーを片手に高倉に腰を下ろし、静けさに身を委ねゆっくりと、一人の時間を味わう。
今回の滞在は、懐かしさを感じながら自身の原点を振り返る旅となった。
忙しい日常から離れ、島で過ごした記憶と向き合う時間。
何気ない日々に改めて奄美の文化や伝統、自然の恵みに感謝と幸福を実感するひとときとなった。
伝泊について
4種類の宿泊施設『伝泊 古民家』『伝泊 赤木名 ホテル』『伝泊 ドミトリー&ランドリー』『伝泊 The Beachfront MIJORA』からなり、集落住民と観光客との交流を促進するまちづくりを行っています。
奄美大島には豊かな自然や生態系が育まれており、2021年には世界自然遺産に登録されました。同様に、様々な歴史的背景の中で「しま」(集落)ごとに異なる約360の集落文化が何百年も継承されてきたことも、世界に誇る貴重な文化資源です。私たちはそれらを「奄美の宝」と捉え、守りたい、未来へ伝えていきたいという想いから、2016年に「伝泊」をスタートさせました。現在、奄美大島・徳之島・加計呂麻島の3島に42棟 52室の宿泊施設を展開しています。
公式HP:http://den-paku.com/
この記事を書いたフォトライター

ショースタク幸子
奄美市住用町出身。2児の母。地域通訳案内士として奄美の観光に貢献できるように頑張ります!