さまざまな信仰が共存し、見守られる祈りの場所~加計呂麻島「西阿室」
島景
2016/09/05
三谷晶子
加計呂麻島、瀬相港より車で15分ほどの集落、西阿室。夕陽の美しさで有名な集落ですが、またさまざまな信仰の場が共存する神秘的な場所でもあります。
集落の人々が大切にする、祈りの場を巡ってみましょう。
不思議ないわれを持つマリア観音像
まず、有名なのがマリア観音で知られる西阿室教会。
マリア観音は、日中戦争に従軍した池田之応氏が昭和18年に中国より帰国する際に持ち帰った、陶器製の子持ち観音像。
池田氏はその観音像を持ち帰り、部屋に飾っていました。
すると、西阿室集落の占者・禱直清氏が「この像を譲ってくれ」と望み、占いの折に霊力を受ける神として拝んでいたそうです。
すると、ある日、禱氏の養女の夢の中にこの像が現れ、「マリアでござる、マリアでござる」と言ったそうです。そこで、禱氏は奄美大島の名瀬に赴き、カトリック教会を訪ねてジェローム神父に西阿室への布教を願いました。
そして、昭和30年、ジェローム神父は西阿室で宣教を始めたそうです。
昭和39年には当時貧しかった奄美の実状を訴えるため、ジェローム神父はマリア観音を持ち、渡米して献金を願いました。マリア観音にまつわる話にアメリカの信者はいたく感動し、多額の献金が寄せられました。
なお、西阿室教会は基本的に信者の方々、救いを求める方の信仰の場所であり、マリア観音はミサの時にしか拝見することができません。
数奇な運命をたどり、現在も西阿室集落にあるマリア観音と西阿室教会は、今も、住民に大切にされ、敬われている存在です。
火の神と海の神が見守る
また、西阿室には、火の神である秋葉権現、海の神である厳島神社があります。
神社はどちらも高台にあり、津波の際の避難場所としても大切にされています。
秋葉権現は火之迦具土神(ヒノカグツチ)、別名を火産霊神(ホムスビ)が祀られています。こちらは防火の神、安全のお守り本尊、鎮火、防災の神と言われ、焼畑農作における農耕の守護神としても知られています。本社は静岡県秋葉山にあり、西阿室出身の元大阪市消防局長赤井次郎氏の名前も碑に刻まれています。
集落の入り口には赤井次郎氏の像もあります。
海の神である厳島神社は、周囲の緑とお社や鳥居の赤のコントラストがとてもかわいらしい神社。鳥居の前で訪れる人々を見守る狛犬の表情にも注目してみてくださいね。
ちなみにこの厳島神社は西阿室の海岸沿いにあるグリヤマと呼ばれる展望台がある場所と高さが一緒だと言われています。
自然を敬う心とともにある聖地
グリヤマに上る道の目印。
グリヤマからの景色。
グリヤマもこちらではカミヤマと呼ばれ、聖地として敬われている場所です。
また、西阿室集落の海には立神と言われる大きな岩があり、古くからシマの守り神として集落の人々に大切にされています。
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ご紹介したスポットは、西阿室集落の入り口にある案内板に場所が記載されています。
さまざまな祈りと信仰の形が今も根付き、共存する集落、西阿室。先人たちの信心と祈りの深さを感じながら、散策してみてくださいね。
この記事を書いたフォトライター

三谷晶子
作家、ILAND identityプロデューサー。著作に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)。短編小説『こうげ帖』、『海の上に浮かぶ森のような島は』。2013年、奄美諸島加計呂麻島に移住。小説・コラムの執筆活動をしつつ、2015年加計呂麻島をテーマとしたアパレルブランド、ILAND identityを開始。