突撃レポート!奄美大島に移住して初めての大和村思勝集落「キトバレ踊り」
島遊
2016/10/19
小海ももこ
私はIターンで、大和村の思勝(オンガチ)という集落に住み始めてもうすぐ5か月になる。大和村役場や奄美野生生物保護センターの近くで、名瀬市街地までは車で30分くらいだ。
奄美には昔から続くさまざまな伝統行事がある。特に旧暦の8月は祭りラッシュ。各集落で開催される祭りはそれぞれに特色があっておもしろい。
そのなかから、今回は思勝集落のキトバレ踊りという伝統行事を紹介したい。
「キトバレ」とは、「祈祷ばらい」が短縮されたもの。奄美の秋の祭事であるミハチガツ(アラセツ、シバサシ、ドゥンガ)において、アラセツとシバサシの間に行われる。
かつては一週間かけて一軒一軒の家の前や庭で踊っていたらしいが、現在は4時間程度で四会場を回る。
4日前に見た唄集に青ざめる
キトバレ踊りの4日前。台風が接近している中、夕方から公民館で練習が開始された。唄集を開くと……これは難しそうだ!
歌本には7曲の歌詞が書いてある。歌う時はデュエットのように1番男、2番女と順番に歌うので、覚える歌詞は半分でいい。
しかし、なんと歌が終わったと思ったら、「八月の流れ」や「月の流れ」など場のノリに寄って追加する歌詞もある。
踊りはある程度真似でいけるが、島口(奄美の方言)と、絶妙の節回しは数日で覚えられるような単純なものではない。その日は音源をもらい、青ざめて帰った。翌日と翌々日は、メロディーを覚えるために暇さえあれば音源を聴いた。
太鼓の音で、キトバレ踊りがはじまる
当日の夕方、太鼓の音が聞こえてきた。ひとり苦労して着た浴衣に下駄を履いて、慌てて表に出る。
まずは、トネヤ(ノロ神が祭祀を執り行う家)の神棚にお参り。奄美ではお神酒も黒糖焼酎だ。
この時点で、数人が庭で輪になり歌い、踊る。
そのあとは第一会場へ。
だんだん暗くなってくる。お酒も入って、ご近所さんの顔も増えて楽しくなってくる。
数曲踊ったら、青年団による寄付の紹介。
「○○さんから、金100万両もらいました〜」の後、指名された2人は太鼓がやむまでグルグルと走る。
第二会場、第三会場と進むにしたがって、人も増え、歌の声も大きくなっていく。浴衣を着たお姉さん方も艶やかで、お兄さん方もいつもより男らしく見えてくる。
「踊りも歌も間違ってもいいんだよ。楽しめれば!」と言ってくれる人がいて、とても楽になった。唄集から顔を上げてまわりを見たら意外とみんな自由で、伝統行事と言ってもそんなに難しく考えなくてもいいのだと感じた。
好きな歌詞
未だに8割以上歌詞の意味がわからないけど、いくつか好きな歌詞がある。
♫今日のほこらしゃ いつよりも勝り ハレいつも今日の毎にあらちたぼれ
(今日はいつもより嬉しい日だ 神様いつも今日のようにありますように)
♫如何な清ら花も 見つめれば飽きゅり 見つめても飽ぬ貴殿花私花サーサヨイサノサ
(どんな美しい花も見ていれば飽きるけど、あなたの彼女も私の彼女も見ていて飽きないよね)
♫寒さ冷気や浦地川の嵐 彼女に思直せば 夏ぬ御肌
(冷気が川に立ち上がるほど底冷えする寒さだが、彼女のことを思えば夏のように暖かく感じるよ)
このキトバレ踊りや八月踊りは、昔は男女の出会いの場。年に一度、一緒に夜通しこんなロマンチックな歌を歌うなんて、それは興奮するイベントだったに違いない。
お祭りに参加したことで集落住民になれたような気がする
歌詞は結局最後まで覚えきれなかったので、唄集を見ながら歌うという無粋なものだったけど、参加したことでようやく集落の一員になれたような気がした。
百聞は一見にしかず、それ以上に参加しないとわからないことがたくさんある。
キトバレ踊り、来年は必ず歌を覚えて艶やかに踊ってみせるぜ!
この記事を書いたフォトライター
小海ももこ
新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。大和村地域おこし協力隊に就任。