興克樹(おき・かつき)さん。神秘的なサンゴの産卵や豪快なクジラのブリーチング(ジャンプ)、ウミガメの産卵・・・海の生きものたちの姿・営みを克明に映し出す自然写真家であり、かつさまざまな調査・研究にも従事。奄美の海の現状を知り、それを今後どう活用していくか。模索する毎日を続けている。
体調を崩して気づいた、「自分が本当にやりたいこと」

(撮影:興克樹 衛星追跡調査中のアカウミガメが海へ帰るところ)
海とのかかわりで、はじめに転機となったのは、旧名瀬市役所(現奄美市役所)職員時代に水族館「奄美海洋展示館」の立ち上げ担当になったこと。
今でこそ奄美の海についての研究はあちこちで行われているが、当時は研究する団体などほとんどなかった。さまざまな場で調査データが求められる中、市職員として”必要に迫られて”その役割を担い、教えられながらフィールドワークを行うようになったという。
在庁中には、サンゴを食害するオニヒトデの大量発生(2000~2007年)も経験。調査の重要性が増す中、興さんの仕事量も膨れ上がっていった。
オーバーワークにより体調を崩したとき、本当にやりたいことに気づいたのだという。自然を相手にしたフィールドワークの楽しさとやりがい。退庁を決意し、いよいよ本格的に調査研究の道に踏み込むこととなった。
きちんと調査して、どう利用していくべきかを考える

(撮影:興克樹)
現在の主な調査対象は、奄美近海のクジラ・イルカやサンゴ礁、ウミガメなど。
冬場に回遊してくるクジラ・イルカの数はどのくらいで、奄美近海でどのように過ごしてどこに行くのか。サンゴ礁は年々どのように変化していっているのか。ウミガメは奄美群島各島でどのぐらい産卵し、その種別構成はどうなっているのか。
(撮影:興克樹 神秘的なサンゴの産卵)
そもそもなかったデータが興さんの調査によって明らかになり、それを重ねていくことで、長いスパンで奄美の海の状態を捉えられるようになってきている。
また、興さんの興味は海にとどまらず、近年は川にはびこる外来水生生物の調査も開始。機会あるごとに、子どもたちも参加できるフィールドワークを開催している。
学術的にも地域にも貢献する仕事だが、一方で興さんは、こうした調査データを「(自然を)活用していくための材料」とも説明する。
「単に自然を守る、ということでだけでは逆に危ういこともあるのでは。うまく自然を見せて、活用していくことで保全意識も高まるはず。きちんと調査して調べていくことは、どう利用していけるかを模索する材料になりえる」。
「基本的に好きなことしかしていない」と笑うが、まず誰よりも自然を愛し楽しむ姿勢が多くの人をひきつけ、ネットワークを広げながら活動できる秘訣かもしれない。