土に触れる体験を届けたい!節子集落の廃校を使ったロビンソンファームがおもしろい
島食
2019/03/20
田中 良洋
奄美市名瀬から瀬戸内町へ向かう道、島で一番長いトンネルである網野子(あみのこ)トンネルを抜けると、左に曲がる道があります。
観光で奄美大島に来られた人はなかなか曲がらない道かも知れません。この道を5分ほど進み、峠をひとつ超えたところに節子(せっこ)集落があります。
この集落をさらに一番奥まで進むと、今は使われていない小中学校の姿が見えてきます。節子小中学校。2015年に廃校になった小中学校です。
集落にとって学校がなくなるのは大きな問題です。子供がいなくなり、戻ってこようと思う人、移り住もうと思う人が減り、人口減少に拍車がかかります。これは奄美大島だけではなく、日本全国の地方で課題になっています。
もうひとつの課題は、廃校の活用方法です。学校ではなくとも、他の方法で利用できれば集落の活気が取り戻せます。
節子小学校は、農業体験ができる施設、ロビンソンファームとして生まれ変わろうとしています。
奄美大島の原風景を残したい
「ロビンソンファームを、奄美の土壌の力を使って心を癒す場にしたい。」
そう話すのは、元瀬戸内徳洲会病院院長の髙野良裕さん。ロビンソンファームは、髙野さんが廃校を有効活用したいと考えたことがきっかけで始まりました。
今、都会で心を病んでしまっている人はたくさんいます。なぜここまで病んだ人が増えてしまったのか。それは、自然に触れていないからじゃないかと髙野さんは考えます。
都会に住むと、便利ではありますが、生活がどんどん自然から離されてしまいます。都会の学校では、校庭は人工芝で覆われ、土を知らずに生活する子供が増えています。
汚れるからと土に触れず、虫を見ると逃げる。アスファルトの場所でないと生きられない人が増えるのではないかと、髙野さんは危惧しています。
去年の夏、ある青年がロビンソンファームにやってきました。彼はうつ病になってしまい、会社に行けなくなっていました。昼夜逆転し、家に引きこもってゲームをするだけの日々でした。
あるご縁でロビンソンファームに来ることになったのですが、最初の一言は「今夜、ゲームの大会があるんですけどインターネットは通じますか。」だったそうです。
奄美大島の端の集落です。当然ゲームができる環境ではありませんでした。それからは土に触れ、動物と触れ合いながら生活をしていました。
すると、だんだん生活が変わってきました。夜型だったのに、朝は早くから起きて畑仕事のお手伝いをし、夜は早く寝る生活に変わりました。人とのコミュニケーションも積極的に取るようになり、子供ともよく遊んでくれる青年に変わりました。
地球のほとんどは土でできているのに、土のある場所で生活できる人が減っている。このまま都会で心をすり減らし、病んでしまうのではなく、奄美大島の豊かな自然に触れて回復してくれる人を増やしたい。そう思ってロビンソンファームを立ち上げました。
大規模な開発をするのではなく、すでにあったものを再利用することで、昔ながらの原風景を残す。この風景を見たときに懐かしさを感じ、立ち止まって人生を考え直すきっかけになればいいと髙野さんは話します。
予防医療に繋がるものを育てる
当初、農業法人としてロビンソンファームは始まりました。髙野さんは医療現場に長い間従事していた経験から、予防医療の大切さを感じていました。
病気にならない体を作るためには、何を食べるかはとても大切です。農薬を使わない新鮮な野菜を作りたいと思いましたが、農業経験はまったくなかったので、何から始めていいか分かりません。
そんなとき、琉球大学の比嘉照夫名誉教授が節子集落へ訪れ、比嘉教授が研究しているEMの存在を教えてくれました。EMとは、人や環境に優しい善玉菌の集合体のことです。
通常の有機農法では虫がたくさん発生して大変ですが、EMを使えばそのような問題がなく、農薬も使わずに作物を育てることができます。
次に必要なのはタンパク源です。すると、鹿児島大学元副学長の萬田名誉教授とご縁があり、ヤギを送っていただけることになりました。
また、マンダクロドリという珍しい種類のにわとりも育てています。卵を産んでくれるので、こちらも貴重なタンパク源になっています。
様々なイベントも開催中
ロビンソンファームでは、他にもいろんなイベントを開催しています。
有名な料理人を招いて、奄美の食材を使った料理教室をしたり、
自然のものを使った染色法を体験するイベントを行ったり、
集落を歩いて案内するツアーを行っています。
他にもレンタルスペースとして利用していただくことも可能です。
現在、ロビンソンファームを髙野さんと共に運営している娘の岡本祥子さんは、こう語ります。
「これからは観光で来た人も受け入れられる体制にしたい。畑で土に触れて、フルーツを収穫できたり、動物と触れ合ったりできる場所にしたい。有機農業を軸として、自然の食を提供できるようにしていきたい。」
廃校を宿泊施設にすることも考えていたそうですが、廃校は防災や地震対策が充分でないため、宿泊施設にすることは難しかったようです。その代わり、テントを買ってグランピング施設にできないかと計画中です。
これからの可能性を感じるロビンソンファーム。奄美大島の廃校のひとつの活用事例として紹介しました。今でも不定期でイベントを開催しており、問い合わせればその時々に合わせて観光客の受け入れをしています。詳しくはロビンソンファームのFacebookページをご覧ください。
この記事を書いたフォトライター
田中 良洋
映像エディター/予備校スタッフ 兵庫県出身。奄美群島の文化に魅かれ、2017年1 月に奄美大島に移住。島暮らしや島の文化を伝えるために自身のメディア、離島ぐらし(https://rito-life.com/)を運営する。