集落の公民館で食べる新しいスタイルのランチ「バル サキバル」
島食
2022/08/02
勝 朝子
奄美大島では蕎麦はあまり食べる習慣がありません。
麺類といえば郷土料理の「油そうめん」。あとはラーメンやうどんがメインです。なので、島にはお蕎麦屋さんが少ないのです。
その数少ないお蕎麦屋さんの一つが本格的な手打ちの十割蕎麦のお店で、空港からほど近い奄美市笠利(かさり)町にあるとのことで、行ってみました。
奄美空港から県道601号線を北に向かって10分。道の左手に目立つ壁画の建物が見えてきます。
「ランチやってます」という黄色いのぼりが目印のここは、須野崎原(すのさきばる)集落の公民館。
この公民館を週末のお昼だけ借りて運営されているお店が「バル サキバル」なのです。バルというのは、スペイン語で食事のできる居酒屋のことで、崎原にあるバルだからバル サキバルと名付けたのだそうです。
入口を開けると「いらっしゃい!」と明るく迎えてくれるスタッフの皆さん。
公民館なので、テーブルも椅子も公民館のもの。何だか、自分が須野崎原集落の住民になった気分です。
バル サキバルのランチは手打ちの十割蕎麦を中心としたメニュー。
メニューは月によっても変わるので、そのときの提供メニューはInstagramで確認してくださいね。
まずはおすすめの食べ方で!絶品の十割蕎麦と天ぷら
私が訪ねた日は「蕎麦と天ぷらの日」でした。
おすすめは、バル サキバルの蕎麦打ち名人 野崎 賢三(のざき けんぞう)さんの作るざる蕎麦と季節の一品、ミニ天丼の「バル サキバル セット」。
蕎麦と丼では量が多い、という人は「ざる蕎麦」と「天ぷら盛り合わせ」の単品もおすすめです。
蕎麦が出来上がるまで、まず出てきたのは蕎麦をカリッと揚げたそばかりんとう。
ほんのり塩味が効いていて、ちょっとビールが飲みたくなってきました。
蕎麦と天ぷらが運ばれてきました。こちらは、蕎麦の単品と天ぷらの単品です。
ざる蕎麦は手打ちの十割蕎麦。蕎麦の香りを楽しむための食べ方がランチョンマットに書かれています。
まずは、そのまま何もつけずに頂きます。
口の中に蕎麦の香りが広がります。十割蕎麦なのにつるっとなめらかなのど越しなのは、熊本県南阿蘇産の蕎麦粉を石臼でていねいに細かく挽いているから。その蕎麦粉と奄美大島の天然水「あまいろ」を使って蕎麦を打っているそう。
次に、塩をつけて頂きます。
2種類置いてあるうちの1つは、東シナ海側の打田原(うったばる)海岸で作られている「ヒロ真塩」。もう1つは太平洋側の手広(てびろ)海岸で作られている「奄美の塩」。どちらも奄美の海水から手作りで作られている塩なのに、味わいが違います。
次は、わさびをつけて。
香りと辛味が強い鳥取県の関金(せきがね)わさびを擂りたてで提供しているそうです。
次に、蕎麦つゆに蕎麦を浸して頂きます。
この蕎麦つゆが絶品。出汁の香りがとても強くておいしいのです。出汁は北海道産の出汁昆布と鹿児島県指宿市山川の本枯節を使って丁寧に出汁を取っています。
次は、蕎麦つゆに薬味を入れて。
最後に、蕎麦湯が出されるので、残った蕎麦つゆに蕎麦湯を入れて味わいます。
この食べ方、実はこだわりぬいた素材ひとつひとつを味わうための食べ方でもあるのです。ぜひお試しください。
そして、天ぷらも素材にこだわりが。スタッフが畑で作った野菜や、地元で採れた季節のものを中心に、米粉と米油でカラッと揚げています。
衣がカリッとして、素材の旨味が引き出され、とても美味しい天ぷらでした。
バル サキバルでは「出所のわかる素材」しか使わない、つまり何が入っているかよくわからないものは絶対に使わないという姿勢を徹底しています。
料理人のこだわりと、安心安全な素材のみを使ってつくるお料理だからこそのおいしさでもあるのです。
集落の公民館でバルを始めたきっかけ
バル サキバル代表の野崎 末雄(のざき すえお)さんにお話を聞きました。
野崎さんは須野崎原集落出身。横浜から5年前に島にUターン。
「山の多い奄美大島にしてはこの辺りは平坦でね。畑に立つと海まで一望できるんですよ。一旦島を離れてから帰って来ると、須野崎原集落は本当に景観が良いところだなあと改めて気づきました。」
そこで、この景観を活かして何かできないかと考えるようになったそうです。
「集落の公民館が月2~3回しか使われていないから、空いている時間に有効利用できないかと思ってね。」
ちょうど、末雄さんのお兄さんの野崎 賢三さんが蕎麦打ち名人であり、集落に住む小原 真紀子(こはら まきこ)さんが料理人であることから、ここでみんなでおいしいものを食べたりお酒が飲めたらいいと思ったそう。
そこで、公民館を使ってバルを始めるアイデアを集落の会議に提案したところ、理解を得ることができ、2021年11月に集落のメンバーでバル サキバルをオープンさせました。
バル サキバルのスタッフはいつも和気あいあいとした雰囲気です。
バルでお客様同士、あるいはスタッフや集落の人とお客様との出会いや新たな繋がりが生まれることもあるそうです。
左から、キッチン担当の野崎 洋子(のざき ようこ)さん、代表の野崎 末雄さん、蕎麦担当の野崎 賢三さん、ホール担当の元多 勝(もとだ まさる)さん、料理担当の小原 真紀子さん。
島のもの、集落のものを活かそうという野崎さんの挑戦はバルだけにとどまりません。
耕作放棄地となっていた農地を借りて耕し、「みんなの畑」として集落の人が共同で使える畑にしました。花も植えてあるので、集落の人にも大好評。そこで採れた野菜などもバル サキバルで使っています。
また、公民館の倉庫の壁面に描かれている絵は、集落の海の景色。島に住むドミニカ出身のアーティスト リオ・アルカンタラさんに頼んで描いてもらったそうです。これがきっかけで、他にも「私も描きたい」というアーティストたちが現れているそう。これからどんな壁画が増えていくのか、楽しみですね。
バル サキバルは、おいしさがクチコミで伝わり、遠くからやってくる人も多いそうです。満席になることも多いので、電話で予約をしてから行くのがおすすめです。
この記事を書いたフォトライター
勝 朝子
Webクリエイター、ITサポーター、奄美大島紬のポケットチーフ「フィックスポン奄美」代表。東京出身。縁あって奄美大島出身の夫と結婚。以来毎年奄美大島を訪れ、2012年奄美大島に移住。奄美の自然、人、文化、食べ物が大好きで、島の隅々まで日々探検中!