旅人を癒す、すがすがしい聖地・マテリヤの滝の物語(奄美大島大和村)
島景
2016/08/29
小海ももこ
奄美大島の西側に位置し、夕陽の美しい大和村は、豊かな森を抱く村でもある。ここに、昔から聖地として有名な滝がある。
大和村を通る県道79号から山道へ入り、湯湾岳に向かって進むと、空気がヒンヤリとしてくる。道の脇には常緑の広葉樹が鬱蒼と茂っており、現代では珍しい「人工物が全くない風景」を至るところで見ることができる。
そしてマイナスイオン満載の森の中に、森林公園“奄美フォレストポリス”があり、その一角に聖地・マテリヤの滝がある。
光さす、「太陽の滝つぼ」
マテリヤの滝の名前の由来は「マテリヤ ヌ コモリ」で、本当に美しい太陽の滝壺という意味だ。
名前の通り、ヘゴなどで太陽の光が遮られた涼しい川沿いを歩くと、急に空がぽっかりと開ける。決して大きくはないが、絶え間なく流れる水と、光り輝く滝壺は、何か神聖な印象を受ける。
夏は涼を取りに来る人が後を絶えない。
川に足をつければ、その冷たさにびっくりする。フォレストポリスに宿泊した人が、たまに水着でやってくるが、10分も入っていられないだろう。
滝壺の深さはなんと9メートル、かつては13メートルもあったという。
大きな鰻”ミンカブリャウナギ”がいるという伝説があり、滝を見ていると確かにそんな鰻がいそうだし、マテリヤの滝の守り神なんだろうなと思う。
フォレストポリスで捕まえられたという大ウナギ、しかしまだまだ大物がいるんだそうだ
旅人と地元民を癒した憩いの場
今は近隣に奄美フォレストポリスがあり、来訪者がアウトドアを楽しむ場所。
しかし、かつては宇検村に抜けるための山道があり、マテリヤの滝には茶屋もあり、そこを通る人たちの憩いの場であった。
福元いう集落があり、薩摩藩政時代は21軒106人も住んでおり、水稲やお茶の栽培がされていたという。
奄美民謡の「くるだんど節」にはこんな歌詞があったようだ。
(集落によって歌詞が違うので一般的な歌詞ではない)
♬
マテリヤの大滝(くもり)なんてぃ
十三女童ぬ 浴(あむい)りゅたんち
うりが棚曳ち
水口(みにやと)ぬ尻から
水口ぬ前まで
棚曳ちゃんち
“マテリヤの滝で水浴びをしている女の子たちがいて、ようやく初潮を迎えたのか水が紅葉のように染まっているよ”と。
そんなことを歌詞にして歌ってしまうことに驚くが、きっとそこには奄美の人たちの子どもたちを見守る温かい眼差しや、それを自然の摂理として大らかに受け止める気持ちがあったことがうかがえる。
マイナスイオンたっぷりの滝つぼ見学へ
マテリヤの滝は、暮らす人と旅人の交流が生まれる場所だったに違いない。
世の中が変わっても、滝は水を滔々と流し、旅人を癒している。
昔の旅人は、マテリヤの滝で焼酎を薄めて飲んだというから、今度私もお気に入りの黒糖焼酎でも持って、涼みに行こうかな。
この記事を書いたフォトライター
小海ももこ
新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。大和村地域おこし協力隊に就任。