奄美の山に残された謎の山城「赤木名城跡」
島景
2017/03/29
トウコ
みなさんは、奄美にも城跡があることをご存知だろうか?
奄美の城は、テレビの時代劇に出てくるような石垣造りの城ではなく、天然の山や丘、海などの地形を利用して造られたものが多い。
あまりに自然の中に溶け込んでいて、パッと見にはわからないかもしれない。
奄美大島北部の笠利町、赤木名中学校の裏山にある遺跡も、そんな城跡のひとつ。
一見、普通の山にしか見えないが、ここにある城跡は国の史跡に指定されるほど貴重なもの。
呼び名を「赤木名城(はっきなぐすく)」という。
赤木名城は、奄美では最大規模の山城跡だが、いつ誰が造ったものなのか、ハッキリとわかっていない。
平成18年に始まった発掘調査の結果では、12〜17世紀を中心に、当時の権力者(按司や琉球、薩摩など)の影響をうけ、政治や軍事の拠点として形成・再利用を繰り返されてきた遺跡とみられている。
日本と奄美の歴史を語るうえで、大きな謎とヒントを秘めた注目の遺跡だ。
赤木名城跡へ行くには、まず赤木名中学校と郵便局の間にある「国史跡・赤木名城跡」と書かれた、小さな青い案内板のある道を進む。
道の先には、突き当たりに次の案内板が置かれており、その奥には「秋葉神社」の鳥居が見える。
この鳥居をくぐり神社の階段をのぼりきると、左側に城跡へ続く山道への入口がある。
山道は歩きやすいよう整備されているわけではない。
足を踏み入れるのに勇気がいる人は、この先には進まず、秋葉神社の奥にある広場「赤木名城跡総合案内板」のある所へ行くと良い。
総合案内板には赤木名城跡の概要が書かれているので、読めば大体のことがわかるようになっている。
夏にここを訪れた時、私は山道へは進まず、この広場まで来て赤木名城跡へ行くのを諦めた。
理由は山の守り神「毒蛇・ハブ」との遭遇がありそうだったから。
城跡は定期的に伐採され管理はされているものの、夏の雑草の勢いに人間は勝てない。
夏はハブも活動的な時期、山道へ入るなら伐採整備後の寒い冬場がおすすめだ。
枯れ葉で足元が滑りやすいので、動きやすい格好で誰かと一緒に出かけると良い。
標高100mほどの頭頂部にある城跡までは、10~15分ほど。
一本のロープが行き先を教えてくれるが、なかなかの急高配。
狭い山道のすぐ横は急斜面なところもあり、間違って足を滑らせたら大変だ。
5分も山道を歩くとハァハァと息が切れた。
なんとか「曲輪(くるわ)」と呼ばれる赤木名城跡の平場に辿り着く。案内板に発掘当時の写真と状況が解説されていた。
案内板にある「堀切」と呼ばれる遺跡を目指し、さらに奥へ向かう。
堀切は一番奥の最高所「主郭部分」へ辿り着くまでに3度現れる。
深さ1.5〜2mほどの、人がすっぽり入ってしまうような窪みで、窪みはそのまま山の斜面下方に伸びて「竪掘」とよばれる遺跡になっている。
上り下りを繰り返す道程は、なかなか体力を使った。
実は、この「歩きにくさ」が、赤木名城跡が山城だったことを肌で感じられる瞬間。
「山城」は防御に有利な険しい山に築かれることが多く、城主は普段、生活のしやすい麓に住み、敵が来襲し戦になると、山頂の城に立て籠って敵を待ち構えたという。
堀切や竪掘は、攻めてきた敵の移動を制限し、自分たちが迎え撃ちやすい場所へ誘導する役目があった。誘導された敵は、待ち構えていた兵に狙い撃ちされ撃退。
赤木名城も、そういった効率的な防御を念頭においた、巧みな城設計になっているという。
堀切を越え、城跡一番奥の主郭部分に着くと、小さめの平場の中央に、こんもりと盛り上がった場所。ここが主郭部分だ。
登ってみると、木々の合間から赤木名の集落が見えた。
青く広がる赤木名海岸。その向こうは、お隣、龍郷町の長雲峠あたりだろうか。夕日は、確かこの方角に落ちる。
遠い昔この城を築いた謎の城主は、この場所から、赤木名の町が真っ赤に染まる夕日を見ていただろうか。
・・・どんな人物が、どんな想いで?
この土地に暮らし、この土地を守り、赤木名の町を残してくれた祖先たち。
どんなに時間が流れても、この島を「美しい」と感じ、愛おしく想った気持ちは今とかわらなかったかもしれない。
追記:
赤木名城跡を訪ねるなら、その前にぜひ下記のサイトを訪れてほしい。奄美の興味深い歴史が、とてもわかりやすく解説されている。
きっと、奄美のなにげない風景も、違ったものに見えてくると思う。
「電子ミュージアム奄美」
https://bunkaisan-amami-city.com
※このサイトで参考文献「赤木名城」を読むことができる。
この記事を書いたフォトライター
トウコ
関西出身。縁あって奄美で結婚。転勤族の夫と供に奄美群島各地を回り、2015年奄美大島に落ち着く。奄美の島々を回るうち、各地の風土・風習・歴史の違いに強く惹かれ、大好きな絵や文を通じて、その魅力を発信していきたいと思うようになる。