西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.4〜龍郷集落〜
島コト
2017/12/12
トウコ
2018年NHK大河ドラマの主人公は、明治維新の立役者である「西郷隆盛」。
生まれと活躍の場は鹿児島本土が中心だが、実は奄美大島に3年ほど住んでいた経歴がある。
激動の時代のなか、ふいに訪れた島暮らし。
奄美大島の龍郷町に残る西郷さんゆかりの地をめぐり、偉人の心に思いを馳せる第4回。
<西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅 全4回>
《西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.1〜りゅうがく館〜》
《西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.2〜西郷松跡地〜》
《西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.3〜西郷南洲第二の潜居地〜》
《西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.4〜龍郷集落〜》
ホッと落ち着く古民家通り・龍郷集落
りゅうがく館で見つけた「西郷どんゆかりの地MAP」を参考に、
西郷松(Vol2)⇨第二の潜居地(Vol.3)と訪ねてきた。
残すところは、西郷さんが奄美大島で最も深く関わった「龍郷集落」。
第二の潜居地を過ぎ、この「笹森儀助の石碑」が見えてきたら集落まではあとわずか。
写真の場所を左に曲がると、集落内の通りに入っていける。
集落内に入ったら、路上駐車は迷惑になるので、車は観光者用の駐車場に止めると良い。
ちょうど集落の中央付近に、車を4台止められる場所がある。
集落の中は、歩いてみると不思議と心が落ち着いてホッとした気持ちになる。
近代的な建物が少なく古い民家が多いせいだろうか。
西郷さんは来島当初と鹿児島本土に戻る前のそれぞれ2ヶ月づつを、この龍郷集落で過ごしている。
最後に住んでいた3番目の家「南洲流謫跡」には、西郷さんが本土へ戻ったあとも妻の愛加那さんと子供達が住み、子供達が大きくなって鹿児島の西郷さんの家に引き取られたのちも愛加那さんが住みつづけた。
(当時は藩の掟で、島で迎えた妻は鹿児島本土へ連れて帰ることができないという悲しいきまりがあった)
西郷さんは龍郷を去ったあとも、島で親交の深かった人達に愛加那と子供たちのことをよろしく頼むとお願いし、手紙などをかわして交流をもち続けた。
子供たちは鹿児島に引き取られたのち、菊次郎は京都市長を2期勤め様々な功績を残し、菊草は大山巌の弟・精之助と結婚した。
愛加那さんってどんなひと?
古老の言い伝えによると、愛加那さんは芭蕉布や大島紬を織るのが上手な人で、髪には銀のギハ(かんざし)をさしていたという。
性格は温和でしとやかで上品、15歳の頃から芭蕉布を織り家計を助け、働き者で辛抱強い女性だったようだ。
※写真:りゅうがく館に展示されている「愛加那のギハ」(複製)
愛加那さんを物語るエピソードを2つ紹介したい。
ひとつめは、愛加那さんが2歳になった菊次郎と生まれたばかりの長女・菊草を連れて、徳之島に遠島中の西郷さんに会いに行ったという話。
西郷さんの2度目の遠島は流罪人として謹慎の身だったという事情や、出産後の愛加那さんの身を案じてからか、愛加那さんが渡海しないようにと、西郷さんは島で親交の深かった見聞役の木場伝内に頼んでいる。
それでも愛加那さんは漁船に乗り、海を越えて隣の島まで西郷さんに会いに行った。
今よりもっと交通の便が悪かった時代、幼児と生まれたばかりの子供を連れて歩くのが、どんなに大変なことか世のお母さんたちならわかるはず。
愛加那さんの行動力と西郷さんへの愛を感じさせるエピソードだ。
もうひとつは、愛加那さんがいつか西郷さんとの離別があることを予期して、毎日西郷さんの髪に櫛をいれて手入れをしている間、櫛についた髪の毛を集めて、せめてもの形見にととっておいたという話。
この遺髪は、南洲流謫跡の記念碑の下に埋められているといわれているそうだが、のこった遺髪は、太平洋戦争の出兵軍人に、武運長久を祈願するためすこしずつ分けてあげたそうだ。
エピソードにある当時の祈願場所だったのかはわからないが、かつては「武運長久」を祈ったとされる建物が龍郷集落にある。
「ブジティン」(弁財天御堂)と呼ばれる建物で、武運長久以外にも妊産婦が安産祈願などをしていたそうだ。
愛加那さんの時代からこの場所にあったのだとしたら、愛加那さんも何かあるたびに、ここへお祈りに来ていたかもしれない。
愛加那の泉
「西郷さんが愛加那にあたえた田畑」を探していたら、MAPにはないポイントを見つけた。
愛加那さんの田畑は集落入ってすぐの三叉路の角地にあるのだが、この三叉路の道奥に「愛加那の泉(イジョンゴ)」と書かれた看板が。
イジョンゴとは湧き水の出る場所のことで、昔から正月の若水をくんだり、島民の生活用水として大切にされてきた水場のこと。
愛加那さんも田畑仕事の帰りにでも利用していただろうか。
愛加那さんが屋号の由来「あいかな」
集落内を歩いて少し疲れたら、オススメの休憩ポイントがある。
特産品販売所「あいかな」。
小さなお店だが、龍郷町で作られた作物を中心に特産品を手作りしているアットホームな感じのお店だ。
このお菓子のイラストは西郷さん?
ユーモラスな表情が可愛らしい。
お土産を見ていたら、お店の方が「どうぞ」といって飲み物をだしてくれた。
まだ何も買っていないのに良いのだろうかと遠慮していたら、どうやら皆さんにサービスしているようなので、ありがたく頂戴した。
今日はミントとレモングラスの手作りハーブティーだとか。
こころづくしのおもてなしに感謝しながら、帰りのドライブ用とお土産用のお菓子を買って外に出る。
防波堤のむこうには龍郷の美しい海。
ずーっと沖の方に赤木名立神も見える。
この海のむこうからやってきて、また去っていった西郷さん。
かなしい別れがくるかもしれないことを、わかっていながらも結婚した2人。
この土地で島の人達や愛加那さんと出会わず、西郷さんが「土中の骨」(Vol.3)のままでいたとしたら、私たちの今はどんなふうになっていただろう。
奄美大島と西郷さん。
そこから生まれた歴史の流れは、けっして小さな役割の流れではなかったように思う。
MAPデーター:龍郷町教育委員会
参考文献:龍郷町誌、南洲翁謫所逸話、西郷隆盛全集第1巻、愛加那記、機関誌「天敬愛人」第28号
<西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅 全4回>
《西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.1〜りゅうがく館〜》
《西郷隆盛ゆかりの地をめぐる奄美大島の旅Vol.2〜西郷松跡地〜》
この記事を書いたフォトライター
トウコ
関西出身。縁あって奄美で結婚。転勤族の夫と供に奄美群島各地を回り、2015年奄美大島に落ち着く。奄美の島々を回るうち、各地の風土・風習・歴史の違いに強く惹かれ、大好きな絵や文を通じて、その魅力を発信していきたいと思うようになる。