「龍の目」のふるさと散歩~”マツリイシ”と”ミヤガジュマル”に出会う
島景
2016/06/10
麓 卑弥呼
一年のうち、春分と秋分の日前後数日のみに出会える、奄美大島一の神秘的なサンセット・「龍の目」。この龍の目が見られる龍郷町円集落は、かつては大島紬と漁業で栄えた集落だったという。
30代の若き区長・圓山和昭さんにお願いして集落をぐるり散策。
シマ(集落)が大切にしてきた数々の祈りの場所や、穏やかでやさしい人々の暮らしを肌で感じる素敵な時間となった。
「龍」ではなくて「ライオン」だった?!
まず圓山さんが案内してくれたのは、集落の目の前の海。
「マツリイシ、というのがあるんですよ」と教えてくれる。
“祀り石”ですか?
「自分たちはカタカナで書くんですけどね。豊作祈願、豊作感謝を行う石です。ほら、これです」
ごつごつとした石が多いなかでもひときわ大きく三角にそびえたつ岩。かつては石の上にお供え物をし、願立てや願なおしを行ったのだという。
また、岩の向こうに見えるかがんばなトンネルだが、かつて集落の人々は龍ではなく「ライオン岩」と呼んでいたのだとか。
集落の人しか知りえないであろう、岩の存在の意味と名前を知ることができて、単純にうれしい。集落がぐっと身近になった気がした。
集落内部に潜む巨木
次に案内されたのは、集落のなかほどぽっかりと開いた敷地にある見事なガジュマル。
「ここにはかつて土俵もあり、祭りの舞台だったんです。昭和40年代まではノロ神様の儀式も行われていた。トネヤでミキ(神酒)を仕込んでゴザをひいて大宴会をしたりね」
ミヤ(神を祀る空間)でもあったこの地に根を下ろし、空間を守るかのように枝葉を広げるガジュマルは、とても象徴的で厳かさも感じる。
続いて樹齢200年はたつというコクタンの木。
奄美では三味線の材料にも使われる高級木材。成長が遅く、これほど大きなものはほかになかなかないのだという。
全校児童7人!座右の銘は”つねに前進”
集落の奥に進むと、国旗がなびく円小学校がある。全校児童は現在7人。ちょうど掃除の時間だったようで、子供たちが仲良くまじめに窓ガラスを掃除していた。
学校に許可を得て、子供たちへ「何年生?1年生はいる?」と質問。
すると、「今年はね、1年生はこなかったの」とのこと。「でも来年は入ってくるよ~」と笑顔で教えてくれた。(※集落内に来年入学予定の幼児がいるということ)
久野博幸校長によると、校庭の草取りを集落の人がしてくれたり、集落一体となって学校運営に協力し、子供たちの成長を見守っているという。
“ここにしかない”ものに出会えるシマ散策
他の荒波地区と同様、円集落も高齢化と過疎化は進んでいる。かつては大島紬の織り方を習うために他のシマ・島からも人が集まってきたほど栄えたというが、現在は人口190人、88世帯。もちろん子供の数も年々減っている。(圓山さん談)
「地域での結びつきが深く、お互い支えあっている。暮らしやすいシマにするために、他の集落とも連携して、町にも振興策をいろいろと要望しているところ」と圓山さん。
「何もない」という表現は好きではない。本当に”何もない”ところなど、どこにもないと思う。龍の目を見に訪れた際には、少しだけ足を伸ばして集落のなかへ。ここにしかない、人々が大切にしてきたものに触れる豊かな時間を楽しんでみてほしいと思う。
この記事を書いたフォトライター
麓 卑弥呼
ライター/しーまブログ編集長。東京都出身。大学時代に訪れた与論島にはじまり、縁あって奄美大島の新聞社に新卒で就職。さらに縁あって島人と結婚し、自らが島人となり奄美に完全に根を下ろす。フリーライターなどを経て2014年にしーまブログに入社し、現在に至る。