14の集落に想いを込めて。村の人の憩いの古民家カフェ「とよひかり珈琲店」が宇検村にオープン
島食
2017/12/22
田中 良洋
奄美大島の宇検村には、やけうち湾を取り囲むようにして14の集落があります。
それぞれの集落ごとに特色があり、宇検村の人と話すと「あそこの集落の人は〜」なんて言葉をよく聞きます。宇検村の人たちは、子供でも当たり前のように14の集落すべての名前を言えます。
そんな宇検村の14の集落がいつまでも続いて欲しい、集落の数が13に減ってしまわないようにと想いを込めた珈琲店が2017年11月14日に宇検村にオープンしました。
その名も「とよひかり珈琲店」。
店主は地域おこし協力隊で2015年4月に奄美大島の宇検村に来た重田朱美さん。祖父母が奄美大島の出身だったことがきっかけで島に来たのですが、知り合いもいない村でどうやって、なぜ珈琲店をやろうと思ったのか。お話を聞いてきました。
木の温もりを感じる店内
とよひかり珈琲店は奄美市名瀬から車で約1時間行った宇検村役場の近くにあります。民家が立ち並ぶ中で一見すると普通の家のように見えます。古びた外観がとても味があり、まさに古民家カフェといった印象です。
ガラガラと扉を開けると、中は外観からは想像がつかないほどお洒落で落ち着ける空間になっています。
陽の光とオレンジ色の照明があたたかく、木の床とテーブルが心を落ち着かせてくれます。玄関で靴を脱ぐスタイルなのも嬉しく、友達の家に遊びに来たようなリラックスした気分になります。
営業日はfacebookページに掲載の営業時間、またはインスタグラムに掲載の営業カレンダーをご来店前にご確認お願いいたします。
いつかは宇検村で育てた豆を使って
コーヒーはエチオピアやルワンダの生豆を取り寄せ、お店で焙煎しています。
カウンターからはキッチンの様子をすべて見ることができます。丁寧にコーヒーを淹れる重田さんの様子は、コーヒーの味をよりおいしくしてくれます。コーヒーを淹れる姿も楽しんで欲しい。そう思って重田さんはお店のつくりをこのようにしたそうです。
コーヒー豆は今は取り寄せていますが、ゆくゆくは宇検村で栽培した豆を使ってコーヒーを淹れたいそうです。お店の前にもコーヒーの木があり、実がなっていました。お店で出せるコーヒーの豆が育つまでにはまだ4、5年かかるようですが、いつかは育てた豆でコーヒーを淹れるのが楽しみだと話していました。
村のみんなで作り上げたお店
お店はもともと、地域おこし協力隊で役場に勤務しているときにお世話になった人の実家でした。「好きに使っていいよ。」と言ってもらい物件は無事に見つかりましたが、オープンまでは大変だったようです。
お金がなかったのでクラウドファンディングでお金を集めました。クラウドファンディングでの資金集めは大変で、胃に穴が開きそうだったとか。しかし、多くの人の協力のおかげで目標金額を超える66万円という金額を集めることができました。
草が生い茂っていた場所を村の人と一緒に草むしりをしたり、ついでに流しそうめんをしたり、木工教室を開いていた人からのこぎりの使い方を教わってテーブルを作ったりしました。
重田さんが手作りしたこのテーブルは、コーヒーを飲むだけでなくイベントやワークショップを開くためにどうしても欲しかったものでした。
照明にもこだわり、夜中までインターネットを使ってイメージに合う照明を探していた日もありました。こだわった甲斐があり、店内にはたくさんのお洒落な照明が優しい光を届けてくれています。中でも玄関を入ってすぐ上にある照明は一番のお気に入りだそうです。
地域おこし協力隊として役場に働きながら少しずつ準備を進めてきました。少ない時間の中での準備は大変ではありましたが、一緒に働く役場の人の理解があったからこそ進められたそうです。村の人にもたくさんご協力いただいてできたとよひかり珈琲店は、宇検村のみんなで作った店だと重田さんは話してくれました。
「とよひかり」に込めた想い
田中「とよひかり珈琲店という名前の由来はなんですか?」
重田さん「とよひかりは、英語で書くと14HIKARIなんです。宇検村には14集落あります。地域おこし協力隊ではじめて宇検村に来たとき、1年目の業務が14ある各集落を回ることだったんです。それぞれの集落で特色があり、みんなそれぞれ自分の集落に誇りを持っているんだと感じました。
そのときに思ったんです。この14という数字が13に変わってしまったらダメなんだ、と。なので、14という数字は使いたかったんです。
とよひかりは漢字で書くと豊光と書くんですけど、豊の字は豊年祭の字でもあります。豊年祭は集落にとって大事な行事で、今でも残っている伝統行事ですし、みんなが楽しみにしている行事です。14と豊の”とよ”から”とよひかり”という名前がある日、ふっと降りて来ましたね。
“ひかり”は島の人のあたたかさを意味しています。なので店の中の光も、あたたかさを感じるものを選びました。」
田中「村の人の反応はどうですか?」
重田さん「まだ若い人向けだと思われていたり、敷居が高いと感じられていたりするみたいで…。でも、来てくれた人が口コミで広げてくれて、少しずつ知ってくれている感じです。
コーヒーを淹れながら来てくれた人の会話を聞いていると、普段と違う一面が見られて面白いです。たとえば役場の人は、普段私は役場の職員としての一面しか見てないですけど、お客さん同士で話していると、友達の関係だったり、親戚だったりする。こんな一面もあるんだ、とこっそり聞いていますね。(笑)」
これからのとよひかり珈琲店
田中「これからどういうことをしていきたいですか?」
重田さん「2018年4月からはお昼も開ける予定です。モーニングの時間を長くして、カフェ利用もできるようにしたい。今でもコーヒーの飲み比べや、アイシングクッキー作りなどイベントはやっているんですが、これからはもっとイベントやワークショップなど、喫茶店以外の使い方も広めたいです。
以前、旅館で働いていたこともあるので、宿泊業もやりたいと思っています。民泊のような形で安く泊まれて、朝に淹れたてのコーヒーが飲めるような場所になればいいなと考えています。」
田中「観光客の人には、どう利用して欲しいですか?」
重田さん「まずは村内の人が立ち寄れて、コミュニケーションが広がる場になればいいな、と思っています。そこに観光客の人も入ってもらって、宇検村に住んでいる人と話ができるような場所になるといいですね。フラットな状態のコミュニケーションができるのが村の人のいいところなので。」
ついつい長居してしまいそうな優しい光とコーヒーが迎えてくれるとよひかり珈琲店。きっとこれから、村の人たちの憩いの場になることでしょう。次に奄美大島に来るときは、少し足を伸ばして宇検村の人たちと一緒にコーヒーを飲んでみるのはいかがでしょうか。
この記事を書いたフォトライター
田中 良洋
映像エディター/予備校スタッフ 兵庫県出身。奄美群島の文化に魅かれ、2017年1 月に奄美大島に移住。島暮らしや島の文化を伝えるために自身のメディア、離島ぐらし(https://rito-life.com/)を運営する。