【奄美の七不思議その4】どこまで本当??話が大袈裟な人が集まる集落の謎
島コト
2018/06/14
田中 良洋
こんにちは、よーすけです。
奄美大島の七不思議シリーズも4話目。折り返しを迎えました。
これまで宇検村、住用町、瀬戸内町と奄美の七不思議を探ってきたこのシリーズ。今回は新たな謎を探しに大和村に来ております。
大和村ならではの謎や伝説を探しているのですが、なかなか面白い情報が見つかりません…
「何だこれ?」
「蛸ゴモリ…大タコのすみか?? 怪しい。。。」
近くにあった大きな看板に説明が書いてありました。
昔、コモリには足の長さが40−50メートルもあったという大タコが潜んでいて浜辺を通る人たちを長い手足で引きずりこんで食べていました。
「足の長さが40-50メートル?!マジかよ!!!これは調べてみるしかないな!」
謎の手がかりを得るため国直集落へ
大タコのすみかの手かがりを探しに、大和村の国直集落にやって来ました。
「海が綺麗だなぁ・・・」
国直集落の海を眺めていると、ついつい黄昏てしまい本来の目的を忘れてしまいそうです。
もう大タコのすみかなんてどうでもいいか…
ワンワンッ
ンメェェェェェ
「ビ、ビックリしたぁ。この動物たち、飼ってるんですか?」
「あぁ。犬の名前はズーで、ヤギはユキちゃん。どうした、黄昏て。」
「実は、蛸ゴモリの看板を見つけたんですが、そのことについて知ってる人を探しているんです。」
「蛸ゴモリか…あれば津名久うーばーの話だな。」
「つなぐうーばー??」
「立ち話もなんだし、カレーでも食べながら話そう。」
大和村の津名久うーばーって何?
お話を聞かせてくれたのはNPO法人TAMASUの中村さん。
一緒に大和村国直にあるBEE LUNCHにランチに行きました。
「で、津名久うーばーって何なんですか?」
「大和村の中に津名久という集落があるのは知ってる?あそこの人は何でも物事を大げさに話すんだよ。それを島の言葉で津名久うーばーというんだよ。」
「何でも大げさに話す??」
「そう。蛸ゴモリだけじゃなく、大タコが戦時中の戦闘機を叩き落としたとか、いろんな話がたくさんあるよ。」
「タコが戦闘機を叩き落とすって。。。(笑)それは津名久集落の人だけなんですか?国直の人は違うんですか?」
「国直は違うよ、津名久だけ。」
「なんでなんだろ?津名久の人に会ってみたいなぁ。」
「紹介しようか?知り合いいるから聞いてみるよ。」
「本当ですか?!お願いします!!!」
ちなみにランチをいただいた大和村国直にあるBEE LUNCHはコンテナを改装してできたおしゃれなオープンカフェです。
自家製のパクチーを使ったカレーはスパイスが効いていて美味しい!
手作り感のある店内は長居したくなる居心地の良さで、ズーもこの表情。
外にはカウンターバーがあり、夏の日に海を眺めながらここで飲むビールはきっと最高です!
鶏もいて、大和村の国直はまるで動物園。
素敵な夫婦が営むコンテナBar、BEE LUNCH。国直に来た時には、ぜひお立ち寄りください!
大和村津名久集落でうーばー話の噂を探る!
中村さんに連れられて訪れたのは、中山鍼灸整骨院。
ここの中山さんに津名久うーばーの話をお聞きしました。
「さっそくなんですが、津名久の人って、本当に何でも大げさに話すんですか?」
「昔はそうやって話す人が確かにいました。最近はそういうじいさんもいなくなりましたけどね。」
「たとえばどういう話があったんですか?」
「たとえば、漁師仲間でお酒を飲んでるときに、一人が『わん(私)はこないだ、こんなでかい魚をあげた。』というと、もう一人が『その魚、傷がなかった?それ、わん(私)がこないだあげようとして逃した魚っちょや。』と言ってました。ウソなんですけどね(笑)。そういうのを平気で言うんです。」
「誰かを傷つけず、面白おかしく話すのがうーばーなのよ。」
「そうなんですね。他にはあるんですか?」
「これも昔聞いた話なんですが、大和村の国直に宮古崎というところがあって、湾の向かい側が親川崎と言うんです。距離にしたら2km弱あるんですけどね。その人は宮古崎の辺りから潜って貝やタコを捕るのが好きだったんですが、ある時夢中になって、一度潜って次に息継ぎで水面に上がったら親川崎に着いたと言っていたんです。一息で2kmなんて、今じゃウソだと分かるんですが、子供の頃は信じてましたね。」
「そういう話を飲みながらするから、みんなで言い合いになるんよ。関西人のノリのように笑いを取りたがる人が多いのかな。負けず嫌いでちょっと自慢されたらウソで自慢を被せてどんどん大げさになっていく。」
「そうなんですよね、ある人が『イザリ(夜の潮干狩り)で25斤のコブシメ捕ったぞ!』と言えば、すぐ別の人が『わん(私)が捕ったのは40斤あった。てる(竹籠)に入らんかったから担いで帰って来た』と言い返す。40斤って言ったら25kgですよ!そんなコブシメ捕れるはずないのに。」
「なんか、ヒップホップのラップみたいですね(笑)」
「昔はこの地域はきびなごをたくさん捕っていたんです。捕ったきびなごを米と交換してた。だからみんな一生懸命きびなご捕りをしていたんですが、ある人がまた大げさに言って『たくさん捕りすぎて、きびなごの重みで船がひっくり返った。』なんて言うもんですから、別の人、この人がホラ吹きの専門のような人だったそうなんですが、対抗して『わん(私)なんて、こないだ捕りに行ったら海の中にきびなごがいすぎて、船がきびなごの群に乗り上がったぞ!』と言うんです。」
「よくそんなすぐ思いつきますね。」
「昔はこういった話を方言でしていたからより面白かった。標準語で言っても面白さが伝わらないんですけど…」
「即興の島口漫談を見てるみたいですね!」
「海に出ていた時代は、雨が降ると何もできなくなるんです。そんな時に花札とかしながら、昼間から飲んで。当時はテレビもラジオもなかったので、子供たちは大人のうーばー話を興味深く聞いてたそうです。子供の頃は純粋なので、誇張していると分からずただただ『すごい!』と思って聞いていたんですけどね。」
「昔はそういう話の面白いじいさんが各集落にいたもんだよ。」
「他の集落にもいたなら、なぜ津名久うーばーと言われるようになったんですか?」
「津名久うーばーという言葉は、ここ最近耳にするようになった言葉です。中村さんが言うように、昔は各集落に話の面白い人がいたんだと思います。ただ、津名久にはたまたま同世代に面白い人が集まったんでしょうね。スターが3人くらいいたそうです。その3人がみんな大げさに話すもんだから、周りの集落の人がちょっと揶揄したように『津名久うーばー』と呼ぶようになったみたいです。」
「自分たちの集落はそれが当たり前だと思っているからね。言い出すのは周りからだよ。」
「大和村では他にも集落ごとの特色を表す言葉があります。たとえば『大和浜いんぎん』。」
「大和浜いんぎん??」
「大和浜の人たちは、あまりにも丁寧なことを指して『大和浜いんぎん』と言うんです。たとえば、他の地域の人なら『いい天気だりょや。(いい天気ですね)』と言いますよね。大和浜の人は違う。『いいひゅうりなりしょちや(いい日和ですね。)』と言うんです。『ひゅうり(日和)』なんてなかなか普段使わないけど、大和浜の人は今でもそういう丁寧な言葉を使うんです。」
「おしとやかな感じがしますね。」
「大和浜には、昔有名な豪族が三家いて、かなり幅をきかせて小作をたくさん抱えていたそうです。支配階級がしっかりしているからですかね、言葉が丁寧になってくるんですよ。その時の名残が今も残っていて、よそのお年寄りが使わないような丁寧な言葉を使うんです。」
「集落ごとに様々な特徴があるんですね。うーばー話に戻りますが、蛸ゴモリの大タコは見た人はいないですか?」
「さすがに見たことある人はいないなぁ。タコじゃないけど、ウミガメならいますよ。」
「津名久港に棲みついてるウミガメがいるよね。行くとほとんど必ず会える。」
「必ず会えるウミガメって、それこそうーばー話じゃないんですか?!?!」
「いや、本当ですよ。必ずというのは言い過ぎかも知れませんが、かなりの確率で会えると思いますよ。」
「本当ですか??これから行ってみますよ、大丈夫ですか?」
「多分いると思うので、行ってみてください。」
津名久港には本当にウミガメがいるのか?!
中山さんの話が本当なのか、確かめてみるために津名久港にやってきました。
ちなみにこの日は冬真っ只中。奄美大島と言えど、風が強くあまり外に長居したくない日でした。
「あぁ…寒い。5分していなかったら、やっぱりウソだったと思って帰ろう。」
「カメよぉ、来ぉ〜い。」
これで本当に来るのか分からず、とりあえず水面をパシャパシャしてみます。
近くにいた猫が不審な目でこちらをみています…
「やっぱり津名久集落の人の話は大げさだ。信用するもんじゃないな…」
帰ろうかと思ったその時でした。
いたぁぁぁぁぁ!!!!!
写真だと分かりにくいかもしれませんが、かなり大きなカメがこちらに寄って来てくれました。
「ほんとにウミガメいたんだ!!!」
一瞬でしたが、挨拶をするように水面から顔を出してウミガメは去って行きました。
ウミガメがいるのはうーばー話ではなく、本当でした。
それぞれの集落に特徴があり、動物がたくさんいる大和村。他の集落に行けば、また違った文化に触れられるかも知れません。
まだまだ面白そうなことが眠っている大和村。今度奄美大島に来た時には、集落巡りなんていかがですか。
この記事を書いたフォトライター

田中 良洋
映像エディター/予備校スタッフ 兵庫県出身。奄美群島の文化に魅かれ、2017年1 月に奄美大島に移住。島暮らしや島の文化を伝えるために自身のメディア、離島ぐらし(https://rito-life.com/)を運営する。