100円で最高の贅沢が手に入る場所「新鮮野菜が並ぶ湯湾釜の無人販売所」
島景
2018/03/08
小海ももこ
私の移住した大和村にはスーパーマーケットがありません。買い物は、村内の個人商店や村営の物産館、もしくは車で30~40分かけて奄美市名瀬の市街地に行っています。
「不便でしょう」と言われることもありますが、逆に豊かで贅沢だなあと思うことの方が多い気がします。その理由の一つが、新鮮な野菜が格安で買える無人販売所があるからです。
その無人販売所は、国直海岸の隣の集落で「湯湾釜(ゆわんがま)」という集落にあります。
県道79号線沿いに見落としてしまいそうなほど小さな木造の小屋があり、野菜や果物を物色している人の車がよく停まっています。販売棚が上下2段あり、農家さんごとに1枠ずつお金を入れる筒が設置してあります。
冬は大根、たんかん、伊予柑、キャベツ、フル(ニンニクの葉)、ニラなど。夏はスモモ、シブリ(冬瓜)、とっつぶる(かぼちゃ)、ドラゴンフルーツ、じゃがいもなど旬の朝採れ果物&野菜が並びます。
しかも、ほとんどが1袋100円という安さ!
湯湾釜は県道からみると木々に囲まれ何もないように見えますが、背後にそびえる山の裾野に奥まった平地があり、防風林で部屋のように仕切られた畑が連なり、そこで農家さんたちが野菜や果物を作っています。
「自分の畑で採れたもので、余ったものを売り始めたのよね」
と、野菜を販売している一人である元田さんが教えてくれました。
無人販売所は、30年余りも前に地元の農家さんたちが1万円ずつ出資して作ったもの。食べきれない野菜を捨てるのは勿体無いし、ちょっとした小遣い稼ぎにもなるということで、10人の農家さんから始まりました。
一見シンプルな無人販売所ですが、台風で小屋が壊れないように補強したり、お金を入れる場所を間違えないように設置したり、お金を盗まれないように筒状にして毎日回収したりと、様々な工夫を重ねて来ました。
現在出品している農家さんは12人で、立ち上げた方々の息子さんや娘さんなど2代目。65〜88歳という年齢層で、目標はとりあえず現状維持だそうです。
村内の人々は、湯湾釜を通る時に何が売っているか無人販売所を覗きます。週末には村外から買いに来る人もいます。
農家さんから「余っている野菜を売ることで始まったけど、今はここに野菜を出すことが張り合いになっている」と聞きました。だからでしょうか、湯湾釜の平地は耕作放棄地が少ないそうです。
また、特別に表記はしていませんが、ほとんどの野菜が無農薬。
そして「野菜をきれいに洗って大きさをそろえること、きちんと袋詰めすること、野菜を粗末に扱わないこと」など共通ルールがあるそうで、長年の経験で得た販売ポリシーを感じました。
午後には商品が売り切れてしまうこともあります。販売所を訪れるベストタイミングは?と聞くと、「9〜10時くらいに野菜を出し始めるから、その直後がいい。天気の悪い日や、台風の後は野菜が少ない。」ということでした。
また、100円玉を用意して行った方がいいと思います。隣の自販機で千円は崩せますが、5千円と1万円札は崩せません。
何が便利で贅沢かというのは人によって違いますが、私はこの旬の野菜が安価で買えるということ、近所の採れたて野菜を料理して食べられることがとても豊かで贅沢に感じています。
大和村にお越しの際は、ぜひのぞいてみてください。
季節の美味しい果物や野菜が買えるかもしれませんよ。
この記事を書いたフォトライター
小海ももこ
新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。大和村地域おこし協力隊に就任。