宇検村の夜遊びは湯湾岳の「ナイトツアー」へ
島遊
2017/10/24
秋葉 深起子
奄美大島の南西部に位置する宇検村は、全体の92%が山間部だ。
奄美最高峰の湯湾岳を有し、周辺域の森は深く、奄美大島のなかでも希少な動植物が多く生息する、サンクチュアリ(聖域)のような場所。
今回は、そんな宇検村の魅力を実感できる「ナイトツアー」に参加することになった。
案内してくれたのはサンクチュアリアマミの松枝孝一さん。
ダイビングインストラクターの松枝さんは10年前に福岡県から宇検村へ移住し、今ではダイビングだけでなく、山のガイドや宇検村全体の観光発展にも携わる。
アマミノクロウサギ「見れなかった割」
そんな「宇検村」を知り尽くした松枝さんのナイトツアー名は、「アマミノクロウサギ・ナイトツアー」。
クロウサギ遭遇率は9割以上。
なんと「見れなかった割」があるそうだ。
もし松枝さんの案内でアマミノクロウサギを見ることができなかったら、料金を一部返金するという心意気!
ガイドとしての、“アマミノクロウサギを見てもらう”自信を感じた。
会いたい!会いたくない!の気持ちが交差する奄美自然界の頂点ハブ
松枝さんと最初に向かったのは「ハブに会える場所」。
宇検役場の一角にあるハブ展示箱。村民が採ってきたハブを保管している。
丈夫な全面ガラスを通してハブを見ることができ、しかもライティング効果で迫力満点だ。
親分格の金ハブは全長2m越え!その下に大小あわせて十数匹はいただろうか?
体を巻き戦闘態勢でじっと私と目を合わせているハブ、
今まさにゆっくり脱皮中のハブ・・・
リアルに背筋がヒヤヒヤした。
もし私が夜の路上でこんなハブに遭遇したらどうなってしまうだろうか?
きっと石の蛙になったように身動きひとつできないだろう。想像しただけでも恐ろしい。
奄美の「山に入るには」「夜を歩くには」の際に必ず知っておかなくてはいけない「ハブの怖さと、尊さ」を教えてもらった。
でも、ナイトツアーでハブに遭遇するのは1割程度。
9割のアマミノクロウサギに比べて、ぐぐっと遭遇率が下がるハブ。
「たった1割なら大丈夫かな。」という安心感と、
「その1割に当たることができたなら、もしかして私たちはラッキーかな?」という少しの期待感を持って、いよいよ私たちは夜の湯湾岳へ。
まるで探検隊になった気分
懐中電灯を照らしながら、夜の林道に目を光らせる。
光も音もない夜の林道は、冷静に考えると非常に怖いはずなのに、松枝さんの森林での愉快な経験や貴重な出会いを面白可笑しく聞いていると、自然に対する畏敬の念や普段まったく意識していなかった生物や植物への興味や関心がいやおうなしに湧いてくる。
「アマミノクロウサギを見つけるぞ!」と、目や耳の意識を集中させていると、まるで探検隊にでもなったような気分で少しワクワクもする。
そんなわたしたちを最初に迎えてくれたのは、リュウキュウコノハズク。
夜行性のため、ナイトツアーならではのお出迎えかな?
その後は、アマミノクロウサギの鳴き声を遠くにききながら、
リュウキュウアオヘビ(アオダイショウ)、アカマタ(マッタブ)、アマミハナサキガエル、アマミイシカワガエルの爬虫類オンパレード。
アマミヤマシギ、ズアカアオバトなどの鳥類も見て、あとは「アマミノクロウサギ」に出逢えれば・・・と思っていた瞬間!!!
ハブ!!!
なんと遭遇率1割の、ハブ!しかも非常に大きいハブが道のど真ん中に!!
興奮する中、松枝さんに最初に教えてもらった「車を降りるときは、ハブがいないか足元に気を付けて冷静に。」を思い出しながら、ドキドキでシャッターを切った。
「本当にいるんだ!普通にいるんだ!」
奄美大島には、人間よりも数多くハブが生息しているのだから、当然のことなのだけど、奄美大島で普通に生活していても、生きているハブに遭遇する確率はかなり低い。
私たちも路上で生きているハブを1度も見たことがなかったため、その目の前で起きた状況をすぐに理解することはできなかった。
そして、探検隊ごっこのようにナイトツアーを楽しんでいた私は、この一瞬で奄美の自然の怖さも知ることができた。
奄美の自然を楽しむには、プロのガイドと
松枝さんの冷静な対応で、ハブも危険なく鑑賞することができ、この後すぐに山の守り神(ハブの別称)には山にお帰りいただきました。
「とうとがなし(ありがとう)」と呟きながら・・・。
そしてハブを見た興奮も冷めやまぬうちに、私たちは「アマミノクロウサギ・ツアー」のメイン探索へ戻ることに。
この日は、恥ずかしがり屋さんのウサギばかりだったのか、クロウサギの正面姿は写真におさめることはできなかったものの、結果的には5匹~6匹のアマミノクロウサギをこの目で見ることができた。
私たちは奄美大島の夜道を車で走ることはできても、何かに遭遇したときの対応ができない。
やはり、奄美大島の自然を安全に心から満喫するには、プロのガイドさんと行くのがいちばん。
宇検村の楽しみ方
ナイトツアーの途中、松枝さんは車を停めライトを消した。
「うわぁ!」
私たちは満点の星空に包まれていた。
道路に寝そべったり、カメラで星撮影をしたり。
しばらくの間、星空の下で静かに各々の時間を過ごした。
夜の動物や鳥を楽しむだけでなく、天候によっては星空も満喫できるナイトツアー。
この余韻にひたりたくなり、この日わたしたちは宇検村に泊まることにした。
宇検村を楽しむには、夜と朝
約2時間のナイトツアー終了後は、そのテンションと集中力のおかげで、意外と体力を消耗する。
ここから、数時間かけて宇検村から帰るなんて、せっかくの旅の楽しさが疲れにかき消されてしまいそう。
それならこのまま宇検で過ごそう。
自然が豊かな宇検村は夜と朝も興味深い。
ミッドナイトブルーの空に散りばめられた星や月。
連なる山の合間から姿をあらわすオレンジの朝陽。
ベッドに入り、耳を澄ますとどこからか自然の音が聴こえてくる・・・何の鳴き声だろうか。
そんなことを考えながら、宇検村の夜を過ごした。
ちなみに宇検村には、宿泊施設が3箇所ある。
その中でも「開運の郷 やけうちの宿」は、食堂(宇検食堂)と入浴施設(やけうちの湯」も併設されており、ゆっくりと滞在できる場所。
島外の方も、そして宇検村以外の島内の方にも、ぜひこの村に流れる特別な時間を堪能してほしい。
今回、松枝さんと廻った自然神秘がギュギュっと詰まった宇検村、湯湾岳の「アマミノクロウサギ・ナイトツアー」。
きっと地元の人でさえ、宇検村の夜を体験したことがある人は少ないのでは。
一度ぜひお試しあれ。
この記事を書いたフォトライター
秋葉 深起子
RDA(Relaxing Days Amami)ツアースタイリスト。東京でカラー&イメージコンサルタントとして、企業研修や講演、プロダクトデザインのカラー提案、フォトスタイリング等を行う株式会社アンドカラーを設立。2017年「五感を刺激する大人のための奄美旅」をモットーに、奄美と出会えてよかったと思えるような旅やイベントを企画運営事業を開始。